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お知らせ
2025.09.29
ライトノベル
ある土曜日の午後、社労士の石山に、顧問先の医療法人の医院長の西村から「先生。実は、うちの看護師と理学療法士が、互いに結婚しているのに、不適切な関係であるといううわさが、以前からありました。本日、他の従業員一同から、2人の職場での、えこひいきや公私混同が目にあまるという抗議が、なされました。従業員一同の総意としては、2人を辞めさせてほしいという事でした。私としても、できれば2人に辞めてもらいたいと思いますが、どうしたらいいでしょうか?今まではプライベートな問題と思っていましたが、流石に職場でも公私混同して、職場の風紀を乱すのをほっておいては、示しがつかないと思いました。」と相談の電話があった。
「2人に辞めてもらいたいという事ですか。うーん。男女の関係は、基本的に、あくまでプライベートの問題です。ですので、不適切な関係があったからといって、その点だけで、ただちに、懲戒や解雇をする事はできません。」といい、石山はさらに続ける。
「一般的に、懲戒処分をするに当たっては、まず、就業規則等において懲戒事由を定めておく必要があります。その上で、「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして」、「客観的に合理的な理由」が必要であり、「社会通念上相当である」と認められなければなりません。月曜日、病院に伺いますが、まずは、就業規則の確認を一緒にしましょう。就業規則に定めがあったとしても、最悪、当事者が納得いかないと裁判等になった場合は、職場における当事者の地位、職務内容、交際の態様、会社の規模、業態等に照らして、当該不倫が、職場の風紀・秩序を乱し、正常な企業運営を阻害したか、企業に損害を与えたかどうが、懲戒処分の有効性を判断するポイントとなります。2人に辞めてもらうという点からは、解雇処分以外の選択肢として、不倫問題を起こした当事者に対し、院長から退職勧奨をする事も考えられます。退職勧奨はあくまで、当事者の合意による退職ですので、この場合、例えば、退職金や再就職で不利にならないよう配慮する等、対象者にある程度譲歩した条件を提示して納得して退職してもらう事が必要になります。」
「なるほど。そうですか。私としては懲戒にはこだわらず、どのような形でも、2人が辞めてくれれば、いいと思います。そうですね・・・まあ、もう少し考えてみます。詳しくは月曜日の午後、お願いします。」
月曜日の午前の外来が終了した1時過ぎに、石山は西村の病院を訪問した。
「急にお呼びたてしてすいません。先日の先生のアドバイスを受けて、考えましたが、2人には自主的に退職したら、退職金は規定通り支払い、懲戒にしないので、懲戒の記録はのこらず、再就職に不利にならないと伝えたいと思います。なお、先日のスタッフからの申し出の際に、スタッフが連名で、2人の院内での振る舞いを文章にまとめていました。2人に、これも見せて退職に納得してもらおうと考えています。その旨、スタッフ一同にも伝えて、了解をえています。」と西村は切り出した。石山は西村から、スタッフ一同が、まとめた文章を見せてもらった。
「Bは患者さんの前でも、Aの事を○○ちゃんと呼んでいる。他にも、AとBは、患者さんの前でも、明らかに他のスタッフとは接し方が違う。患者さん達にも感づかれて、2人の仲について聞かれた事がある。どう答えていいか返答に困った。患者さんにも感づかれるような、2人の振る舞いは問題だと思う。」
「Aが連絡事項を引き継いでいないのが原因で、トラブルになったが、なぜかBはAをかばい、Cさんが気づかないのが悪いとCさんを注意した。Cさんはショックを受けていた様子だった。あの件は、皆、おかしいと言い合っていた。」
「AとBは他の職員もいる前で、今度○○に行こうと二人で盛り上がる。AはBのみに、お菓子やプレゼントを他の職員もいる前で渡している。そういう事は、誰もいない所でしてほしいと思う。」
「AにもBにも、互いに家庭がある事は、皆知っている。特にBは、自分の子供が好きだとも常日頃、周囲に言っている。それなのに、こんなのを見聞きするのは辛いし、AとBに、どう接していいかとまどう。」
石山は読み終わって、「なるほど。うーん。そのような事が事実であれば、おそらく退職に応じるでしょうね。提出された皆さんの了解があるのであれば、2人にも直接読んでもらってもいいと思います。まずは、自主的に退職してもらうように2人を説得しましょう。先生からは、あくまで、退職勧奨であって解雇ではないと、いう点を強調してください。」「わかりました。きちんと2人に伝えます。」といいながら西村はため息をついた。
「そうそう、就業規則の懲戒規定を確認しましょう。」と石山は言う。「ああ、準備していました。一応、懲戒規定に風紀を乱すものという項目はありました。」といいながら西村は就業規則を見せる。「確かにありますね。万一、退職に応じてもらえない場合は、次の手を考えましょう。」と石山は懲戒をする場合の事も、考えならがら言った。
数日後、院長の西村に2人が呼ばれた。「お二人の事で、他のスタッフ一同から、抗議がありました。まずは、これを見てください。」と西村はきりだした。
2人は読んで無言であった。「二人の噂は、何となく、私の耳にはいっていました。ここで指摘されている事は事実ですか?」と、西村は念押しした。
「はい。概ね事実です。」「否定はできません・・・」とうつむいたまま、2人は認めた。暫くの沈黙ののち、「そうですか。院長として、お二人には自主的に退職して頂きたいと思います。けじめがつきませんから。なお、お二人が、自主的に退職すれば、退職金は通常の退職の場合と同様にお支払いします。懲戒処分もいたしません。これは、あくまで、退職勧奨です。退職するかどうか、明後日までに決めてください。」と西村はきっぱりと告げた。2人は力が抜けたように、しばらく顔を見合わせていた。次の日、二人とも退職届を西村に提出した。
後日、西村は北山に報告をした。「無事に?2人とも退職してくれました。納得いかないと拒まれたら、どうしようかと心配していました。新たな求人も必要ですがお願いします。」
「そうですか。まあ、ひと段落ですね。ハローワークに求人を出しましょう。」
「そうですね。よろしくお願いします。勤務医の時は、患者さんの事だけ考えていたらよかったけど、開業するとこんな事も考えないといけないですね。」と西村はため息をつく。
「そうですね。人を雇うとどんな事が起こるかわかりませんからね。」と北山は応じた。
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